コラム

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2021-09-28

社会保障と暮らしの支援制度

市ノ川 一夫

第1回 “社会保障”って、私たちの暮らしに一体どんな関係があるの?

 

この夏話題になった、医療ドラマ「TOKYO MER」。ご覧になった方もいるかと思います。ご記憶にあるだろうか。賀来賢人さん演じる厚生労働省の医系技官が、危機を脱して無事出産した女性にこう言いました。

「私の母はお金もなく、ろくな治療も受けられずに若くして死にました。そうした医療の不平等を是正するために、私は医師免許を持ちながら官僚になりました。この国には国民を守るための制度が少しずつですが、できています。出産一時金や保育手当の手続きを忘れないようにしてください。新しい命を支援する仕組みを利用してください。私はそうした制度をこれからもっと拡充して、だれもが希望をもって生きられる国にしていきます」。

この言葉(セリフ)は、ある意味社会保障制度の意義を端的に述べていると思います。
そして、社会保障制度は医療に限ったことではありません。私たちの生活に寄り添ってくれる制度なのです。
社会保障制度って生活保護とかのことでしょう?とか、年金をもらえるのはず―っと先のことだし、と自分にはさほど恩恵のない制度と思われるかも。でも、そうでもないのです。
私事ですが、3年前に2人の弟を相次いで亡くしました。世知辛い話ですが、入院もお
金がかかりますし、葬儀、埋葬もただではありません。悲しみに暮れる暇もなく、手続きが押し寄せてきます。そんな時に助けとなったのが、公的サービスや給付金などの支援でした。
おかげさまで、私の家族の生活を守り支えとなってくれました。こうなってはじめて、「社会保証制度」のありがたみを実感したわけです。
新型コロナワクチンによる感染拡大で、私たちの生活、私たちをとりまく環境は一変しました。バイト先での仕事がなくなり収入が激減した、あるいは雇止めなどで仕事を失い、他の仕事にも就くことができず、生活に困窮している、といった状況は日々のニュースでも耳にします。こうした状況を私たちはどう乗り越えていけばよいのでしょうか。どう生活をつないでいけばよいのでしょうか。
皆さんも心配がつきない毎日を送っていることと思います。社会保障制度が悩みのすべてを解決してくれるわけではありません。ですが、セーフティネットとして、最後の砦としての社会保障制度の知識があるとないとでは、心の平安が大きく異なるのではないか、と私は考えています。

これから皆さんと一緒に、社会保障制度について考え、これからの生活をよりよくして
いくお手伝いをしたいと切に願っております。
それでは、第1回目は社会保障制度の全体像について、やさしく解説します。

 

社会保障とはどんな制度?

社会保障 年金手帳

社会保障は、「国民の生活の安定が損なわれた場合に、国民にすこやかで安心できる生活を保障することを目的として、公的責任で生活を支える給付を行うものである」と記載されています。(1993年社会保障制度審議会第一次報告より)

社会保障は現在の制度に体系化されるまでは、イギリスをはじめとする世界の主要国において長い歴史を経て作られてきました。
原型は、政府が貧しい人たちを救うために、国民から集めた税金でサービスやお金を支給する仕組みでした。これは公的扶助と言われます。今の日本では生活保護がこの仕組みに当たります。
その後も、新たな仕組みが作られます。働いている人たちがあらかじめ自分たちでお金を出し合って運用し、病気や事故にあったり、高齢になったときにサービスやお金をもらう仕組みです。この仕組みは社会保険といい、自助・共助の制度で、医療保険や年金保険、介蓑保険などあります。
生活困難になった人たちの救済としての社会保険の仕組みは、病気や失業、貧困に陥る原因となる事故にあらかじめ備えておいて、必要な時に生活困難な状況に陥らないようにする社会保険としての貧困予防の機能を持っています。
社会保険は給付を受ける人はあらかじめその制度に加入し、保険料を負担します。そして必要が生じたときに給付される仕組みで、自助・共助の仕組みとなります。
現在、社会保険制度には、医療保険制度、介護保険制度、年金保険制度、雇用保険制度、労災保険制度があります。

時を経て、家族の形や働き方などが変化し、サービスが必要な人は貧しい人たちだけではなくなってきます。そこで貧しい人を対象とした公的扶助の枠組みの中で別の仕組みが考えられ、児童福祉制度や障害者福祉制度が作られました。これらの社会福祉制度は貧困者に限らずに、サービスを必要とする方に提供される制度です。
社会福祉制度には児童福祉制度、障害者福祉制度、児童手当、児童扶養手当制度、特別児童扶養手当などがあります。

こうして長い歴史を経て、現在の日本の社会保障制度は、大別して社会保険制度、社会福祉制度、生活保護制度の3制度から構成されることになりました。
図表1.社会保障制度の全体図

そして、社会保障の給付には、福祉サービス、医療サ―ビス、金銭給付の3つの給付があります。「すこやかで安心できる生活を保障するための給付」として、保育や介護などの福祉サービスと医療サービスがあり、さらに生活が困窮した時や病気になったり、失業したり、高齢で働けなくなった時に、生活に必要な所得を保障するためのお金の給付があります。

いかがでしたか?
社会保障制度の全体像について概要をご説明いたしました。以前より身近で頼もしい制度であることを感じ取っていただけたのではないでしょうか。
全体像を理解した上で、それぞれの個別の制度についての大まかに理解してさえいれば、いざという事態に遭遇しても、生活が破綻したり貧困に陥ることは避けることが可能です。
自分や家族の生活を守る、支えてくれる公的支援サービスの存在を知っていれば、むやみにお金を貯めこんだり、将来への不安や心配から解放され、心穏やかに安心して暮らしていくことができるでしょう。社会保障についてさらに詳しく知りたい方は、厚生労働省などの公的機関のホームページや本を購入して学んでください。
次回から、私たちの生活に身近で誰もが利用可能な様々な制度について解説してまいります。